オカモト デザイン システム


ここ2.3年、若い人が洋服の仕立てを勉強するケースが見られるようにな ってきた。オタク的な洋服好きから、 ビジネス上でのキャリアアップを目指す、あるいは自営業の後を継ぎたいなど、販売よりももの作りに目が向けら れるようになってきている。これから の業界は若い感性が洋服に生かされな いと、ビスポーク業界は益々沈静化し かねない。今、生徒で活気にあふれる オカモト・デザイン・システム(大阪市中央区高麗橋)を主宰、技術指導する岡本富一氏に現状とこれからの業界を聞いた。

――マスコミの影響もあって、ひとつのビスポークブームが起きていますね。若い人たちのもの作りに対する関心が高まっていると聞きます。

岡本 オカモト・デザイン・システムを開設し、生徒を教えて10年になりますが、ここにきて、ビスポークが注目されるようになり、わたしどもへの問 い合わせが増えていることは事実です。ただ、いつも言っているのですが、せっかく技術を勉強し、習得しても受け皿が少ないことが残念です。これさえ整えば、どんどん若い技術者が育って、業界が盛り上がるのでしょうが。

――それは、わたしども新聞にも言えます。新しい情報を提供し、業界を啓蒙しなければならない。全体の認識がひとつになって、波を起こさなければならない。

岡本 期待しています。さきほどの話ですが、生徒を見ていると24.25歳がひとつの転機になっているようです。これらの人材を求め、そのエネルギーを活用できる業界の力がほしいですね。

――最近、問い合わせが増え、生徒の数が増えていると聞くのですが。

岡本 はい。

――どのような若い人が門を叩くのですか。

岡本 ひとつは定職についている人が、もう一段上を目指し、技術を勉強したいというケースです。たとえば、最近では、学校出てアパレル関係に就職し、洋服の販売を担当しているが、経験を積み、ある程度の年になって、“このままではだめだ”と思い、私どもへ来ている。

――しっかり自分の将来を考えている。昔と今では、若い人たちの考え、取り組み方がちがうでしょうね。

岡本 まず、育ってきた環境が違うでしょう。今の人たちは、1億中流で甘やかされて育っているのを感じますね。われわれの時代と比較して、我を通せる。やりたいことがあれば、親が、家がどうあろうとやり通す。いい意味では、前を見ている。目標を持っている。賢いと言えば語弊があるでしょうが、しっかりしていますよね。

――知識、情報が豊富な時代だから。

岡本 相談を受けますが、まず業界の現状を正しく説明します。好きだけでは続かない。

――それでも、がんばっている人というのは?

岡本 やはり、今やらなければ、やる時がないというケース。もうひとつは、学生時代から洋服が好きで、おしゃれ
が好き。本をよく読んで、英国の洋服の歴史なども勉強しているケース。一般的な学校のように、デザイナー云々
ではなく、もっと現実を見つめている。ですから、理解力がいい。2.3枚縫っただけで、業界のショーに出品し、褒
められる洋服を作ってしまうのですから。

――岡本さんの時代から見て、今の時代では、教え方が難しいのでは。

岡本 簡単に言えば、今の子は難しいことを言ったら、付いて来ない。パターンを習うと興味を持つ。全部したく
なる。マニア的になるというか。そうなりがちです。ポイントは習うことを楽しくする。本人が喜びを見出せるように。そのため、教科書を今に合ったものに変えています。

――具体的に、どのように変えたのか。

岡本 昔は穴かがり、マツリを徹底してから次に移るのですが、それを抜いて、もの作りを優先します。作る喜び
から教えるのです。手仕事がまずくても、きれいな形ができる。ここがポイントです。つまり本縫いから入ります
これまでの反対から教える。ここで、細かい質問が出る。これにきっちり答えてやらないとだめ。

――1年のカリキュラムで言うと。

岡本 パターンを6ヶ月、週に2回、3時間こなします。これを終えて、縫製とパターンの2つのコースを選択し
ます。縫製はズボンを先に縫って、それから上着です。

――パターンについてもう少し具体的に。

岡本 スケールゲージを多用した新しい製図で指導しているので、理解が早い。シルエット作りは、パターンのバ
スト、ウエストなどの差寸で「カタチ」を作る方法を採用している。

――縫製については。

岡本 プラモデルの組み立てのように パーツ設計に重点を置き、「作業標準書」を使って組み立てていく作業です。
最初はプロの3倍くらいの時間がかかるが、先日の西部技団出品のショーの服は、1着目からできる。あとは、時
間の短縮を本人と考えながら進んでいるので、しっかり覚えられるというものです。

――縫製のポイントになるのは。

岡本 ミシンです。自由自在に使えるようになれば大丈夫です。最初は布を使い、巾をきちっと縫い、決まったと
ころで止める練習です。しつけは使わない。クリアできれば、紙を使ってミシンが正確に走って、止まっているか
再確認します。これを基本にしています。

――いきなり布(生地)でミシンを。

岡本 布はズレを体で覚えさせるためです。

――上達のほどは。

岡本 今の子は、反復をしない。つまりおさらいをしないのが難点です。とにかく、即作りたい。だから怖がらな
いですね。勤めているケースもあり、時間に余裕がないということも言えますね。こちらとしては、簡素化した方
法で、いかに効率よく教えるかです。時代の変化が早い。修得した技術をできるだけ早くお金にしようと思う。だ
から、彼らの要望にかなった教え方が必要なのです。

――そういう意味では、しっかりしているのですね。

岡本 選択肢があり、それを自分で決めている。自らの経験、知識を通して、洋服に興味を持った結果、勉強に来る。
英国は好きだが、イタリアは好まない。また、その逆もあって、好き嫌いがはっきり言えて、目指す洋服も自分の中
でしっかりイメージができている。古着を買って、当時のデザイン、テイストを研究し、その年代の洋服を作る。我々の若い時と比べ、環境は大きく変わっています。

――ここ1,2年、技術を勉強したいという問い合わせが増えているようですね。

岡本 アパレルに勤めていても、商品の流通、販売だけに従事していると、将来へのステップアップができない。企画をするには、洋服のハード面の理解が必要になる。そんなケースでの生徒もいます。また、テーラーの息子さんで、アパレルしか知らなかったが、洋服の本質をオーダーに求めて、技術の勉強をする。多くは大学を卒業後、就職し、ひとつの転機を迎えた人です。今の若い人たちは、我々の時代と違った、洋服好きが増えているように感じます。だから、PRして、業界を盛り上げることができるチャンスの時期にあると思っている。

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